【校長挨拶】令和 7 年度始業式挨拶「社会の一員としての自分、初心忘るべからず」2025.4.7
令和7年4月7日
学生・保護者の皆様
校長 田村 隆弘
令和 7 年度始業式挨拶「社会の一員としての自分、初心忘るべからず」(校長挨拶)
皆さん、おはようございます。
新年度、昨日入学した1年生も迎えてスタートします。また、志の高い人が集まってくれました。今年度も、皆んなで頑張りましょう。
2年生以上の学生の皆さんには、2月の年度末の放送集会で、私から課題を出していたことについて考えていただいたでしょうか。「社会の一員としての自分とバタフライエフェクト」というテーマでしたがいかがでしょう。
この「社会の一員として」というキーワードは、東京大学の教育社会学概論という教科で、最初に読んでくるように指示される「バーガー社会学」という本に出てくる言葉です。バタフライエフェクトはNHKの番組のタイトルにもありますね。
さて、皆さんは、中村哲という人をご存知でしょうか。先日行われた本校の卒業式修了式でも紹介させていただきましたが、脳神経科医師で、アフガニスタンやパキスタンで医療活動をしておられましたが、今から、6年前の2019年に現地で武装勢力(タリバン)に銃撃されて亡くなられた方です。
アフガニスタンやパキスタンと聞くと、過激派テロリストの拠点があって内戦が絶えないといった危険な国を思わせますが、中村医師は、その地に赴き医療活動する中で、この国には戦争以外にもっと大きなリスク、すなわち、旱魃に起因する病気の蔓延があることに気づきます。そして、彼はこの問題を根本的に解決するために井戸を掘り水路を建設します。まさに医者なのに工学を勉強し直して、エンジニアになって自らその先頭に立って汗を流します。
彼の業績は、とてもこの時間ではお話しできない多くの素晴らしいものを多く残されていますが、著書もたくさん残されています。
なぜ、私がこんな話をするのかと思われたかもしれませんが、実は、中村医師の言葉の中に、先ほど私が2年生以上の学生に春休みの課題として話した「社会の一員としての自分とバタフライエフェクト」の答えにつながる文章に出会ったのです。
それは、「天、共に在り アフガニスタン30年の闘い」という本の「はじめに」の中にありました。ご紹介します。
「様々な人や出来事との出会い、そしてそれに自分がどう応えるかで、行く末が定められて行きます。私たち個人のどんな小さな出来事も、時と場所を超えて縦横無尽、有機的に結ばれています。(ここはバタフライエフェクトですね。)そして、そこに人の意思を超えた神聖なものを感ぜざるを得ません。この広大な縁の世界で、誰であっても、無意味な生命や人生は、決してありません。」
「現地(アフガニスタンでの)30年の体験を通して言えることは、私たちが己の分限を知り、誠実である限り、天の恵みと人の真心(まごころ)は信頼に足るということです。」
そして、終わりに「この本が、人の陥りやすい人為の世界観を超え、人に与えられた共通の恵みを嗅ぎとり、この不安と暴力が支配する世界で、本当に私たちに必要なものは何かを知り、確かなものに近づく縁(よすが)にしていただければ、これに過ぎる喜びはありません。」
いかがでしょうか。一度聞いただけでは、入ってこないという方もおられるかも知れませんが、この本を図書館にも用意していただくようにしますので、ぜひ、手にとって読んでいただき、中村医師の言葉に触れていただきたいと思います。
さて、昨年度は、本校が創立60年を迎え記念事業も実施しましたが、人で言う60歳は還暦でした。
この還暦は、暦が還(かえ)ると書きますが、その人の干支が、生まれた時の干支に戻るという意味からきています。
ということで最初に戻るということや、本日が年度のはじめということから、
「初心、忘るべからず」と言う言葉を連想しますが、きっと、皆さんも聞いたことのある言葉かと思います。
これは能楽の大家、世阿弥が、能楽を次の世代に伝承するために花鏡という著書に記した言葉です。
そこには、
是非の初心忘るべからず、
時々の初心忘るべからず、そして、
老後の初心忘るべからず、の3つの言葉について述べられています。
例えば、入学式などでは、「本校に入学した時の初心を大切に」などといった使われ方をしているかと思います。なんとなく、入学した時の新鮮な感激を大切にしましょうと言うように使われていると思います。しかし、この言葉が本当に意図するところは、「次の段階に上がる前の心掛けを示している」と言われています。つまり、人は、次の段階に入る時点では、その知識や技術が無くて、つまりまだ上手にできない状態にあって、その上手にできない状態における恥ずかしいとか悔しいとかいった気持ちを大切にしながら成長しなくてはいけないと伝えている、と言うことです。
つまり、うわついた気持ちではなく、常に反省する気持ちを持ちなさい、と言っていることになります。
中々厳しいですよね。例えば、2年生の科目を習得して、3年生に上がった時「やったー3年生だ」、と思うのではなく、3年生の知識や技術を知らないことを恥ずかしいと思って、謙虚に勉学に励みなさいといっているのですから。そこには、常に向上心を持ちなさいと諭す思いが伺われます。あるいは、先人や先輩を尊敬する気持ちも大切ですと言っているように思います。
本校にとって61年目がスタートする本日、私も高専に勤めて47年目、校長を務めて7年目に入りますが、まだまだ初心を忘れずに日々努めたいと思います。皆さんも、それぞれ今この時の初心を忘れずに、まずはこれからの1年間、充実した日々を送っていただくようお願いして、年度はじめの挨拶といたします。