研究概要
スパッタリング成膜における薄膜構造制御に関する研究
高速低温スパッタリング技術の機能性薄膜への応用に関する研究
スパッタリングにおける薄膜構造制御の重要なパラメータは成膜時の温度、すなわち基板温度とガス圧力です。しかし、近年、酸化物などの無機系の機能性材料を耐熱性に劣る有機系材料の基板上へ成膜する場合も多くあり、薄膜構造制御の重要なパラメータの一つである基板温度を事実上動かすことができない状況も多くなっています。そこで基板温度、すなわち熱エネルギーに代わる薄膜構造制御のための新たなエネルギーが必要とされてきました。
本研究は様々な機能発現に薄膜構造制御(結晶or非結晶)を必要とする金属化合物体を、事実上、基板温度を動かすことが出来ない状況下で薄膜化する際に種々の手法に共通した課題になると考えられた熱エネルギーに変わる薄膜構造制御のための新たなエネルギー制御に焦点をあてて進められたものです。我々はこの代替エネルギーとして原子状励起種の化学アニーリング効果とスパッタ粒子の運動エネルギーに着目しています。
本研究は様々な機能発現に薄膜構造制御(結晶or非結晶)を必要とする金属化合物体を、事実上、基板温度を動かすことが出来ない状況下で薄膜化する際に種々の手法に共通した課題になると考えられた熱エネルギーに変わる薄膜構造制御のための新たなエネルギー制御に焦点をあてて進められたものです。我々はこの代替エネルギーとして原子状励起種の化学アニーリング効果とスパッタ粒子の運動エネルギーに着目しています。
1. 金属酸化膜の高速低温結晶化
本研究室が開発した金属酸化膜の高速低温結晶化成膜法は併用式スパッタリング法の1つであるRAS(Radical Assisted Sputtering)法を応用し、アモルファス表面(金属酸化膜)上に原子状酸素(ラジカル)励起を利用した核形成のステップとその核形成層の上に通常のRAS法を用いて低温下(100℃以下)で結晶性を有する金属酸化膜を堆積させる2段階ステップの成膜手法を特徴としています。この手法を使って、高速低温条件下におけるラジカルを用いた薄膜成長(特に結晶成長)メカニズムの解明を進めています。現在までにTiO2光触媒薄膜を中心とした様々な金属酸化膜のスパッタ薄膜構造とラジカルの化学アニーリング効果との関係を定量的に調査し、ラジカルの化学アニーリング効果に有効な薄膜構造の確立とその制御因子の抽出を行っています。
2. 全固体型エレクトロクロミックディスプレイの開発
電気化学的な酸化還元反応によってその光学特性が変化するというエレクトロクロミックディスプレイ(ECD:Electro Chromic Display)の開発を行っています。特に、固体電解質材料を用いた全固体型化や各種EC材料の機能性向上とその制御因子確立、さらには成膜速度向上および基板低温化といった生産技術的問題を解決した実用的な成膜技術の開発を進めています。
着色
消色
併用式スパッタリング法を用いて作製した全固体型ECD(印加電圧±1.5V)
着色
消色
併用式スパッタリング法を用いて作製した全固体型ECD(印加電圧±1.5V)
3. 新規シラス構造体の作製と工学的応用
鹿児島県を中心として宮崎県や熊本県の南部地域を含む九州南部には、シラスと呼ばれる白っぽい砂質の堆積物が広く堆積しています。本研究室ではシラスの粒子にかわる形態として薄膜に着目し、薄膜作製技術の1つであるスパッタリング法を用いてnmオーダーでシラスの薄膜化を行っています。現在までに、バインダーを必要とせずに、より効果的に薄膜化されたシラスを基板上に堆積できることが確認できており、薄膜化されることで高い透明性や親水性、さらには固体電解質としてのイオン伝導度特性などの新たな物性が発現することが確認できています。